発展途上のボクらとしては ~蛇足
 



  *お兄さんたちからの逆襲編 Part.2。
   いたるところ『R-18』です、ご容赦ください。




     3



そもそもは自分が太宰への嫌がらせ半分な“報告”を
この少年経由でさせたことに端を発しているようなもの。
その時に一種の隠語のようなものとして“寸止め”なんて言い方をしたのが、
廻り回ってこんな形で言い出しっぺへ戻ってきたのであり。

 『え~~~~、あの話聞いてたんですかぁ?///////////』

太宰曰く“不可抗力”だったらしいが。それと俺は直接は訊いてない、と。
外套に付けっぱになっている盗聴器を指摘したのが、
その太宰の突撃もどきで微妙不愉快な逢瀬となった翌日のこと。
そうかだからこの外套を着ておいでと言ったのですねと、
厳寒の冬になりそうだと見越し、中也が見繕ってくれた
ネイビーブルーのダッフルコートを着たまま見回してみせて。
出社時や活劇が見越されようときは、動きやすいライトダウンで出ることが多い敦だが、
確か先だっての任務は、街の雑踏の中に紛れつつ対象を尾行するという情報収集だったので。
探偵社員であることは極力隠さねばと、
普段と違ういでたちに徹した方がよかろうとの判断を敷いてこれを着たのだ。

 『まぁな。』

太宰の奴がうっかり外し忘れたらしいという盗聴器を指摘してやり、
それで自分も事情に通じていると示したのが珍しくすぐさま通じたのは、
結構な成長で。そこへと畳みかけるよに、

『芥川相手に“カンニング”するとは不逞野郎だな。』
『カンニングって……。』

手短な言いようで、でも何へと怒っておいでか、
ちょっとお馬鹿な自分へも伝わりやすい言い回しをしてくれる。
ああこういうお叱りも上手な人だと、頬を赤くした可愛い愛し子。
言っておくがまだまだ保留だ、勝手に調べるなんてのも以ての外だからなと、
頼もしい腕の中と抱き込まれながら、耳元へ囁かれ。
低くて甘い響きのお声に、
腰の辺りから ちりけもとまで、背条がぞくりと震えてしまったの、
今また思い出してしまい、胸の底が微かにうずき始める。

「…ん? どした?」

いつの間に眠っていたものか、
掻い込まれている腕の中、ぽかりと目覚めた敦らしく、
寝息の変化でだろう、あっさりと拾ってくれたそのまま
優しいお声が聞いてくれて、

「ちゅやさん…。」

 起こしちゃいましたか?
 いや。まだ寝ちゃあいなかった

喉に声が絡んで仕舞い、ンンっと咳払いをすれば、
少ぉし身を浮かさせてくれてから
“ほれ”とミネラルウォータのペットボトルを差し出してくれる行き届きようで。
甲斐甲斐しく尽くしてくれる大人な人へ、
敦がぼんやり思ったことといやぁ、

  ああ また自分だけが気を遣
(や)ってしまったんだなぁ、と

それは激しい吐精感に呑まれ、浮遊感に襲われて意識が飛ぶ。
まだまだそうまで不慣れな身でありながら、
中也曰くの“カンニング”なんて烏滸がましいことだったみたいだと、
ちょっぴり反省したものの。

  中也さんたらどうやって宥めているのかな、なんて

性懲りもなく思ってしまう。
だって自分ばかりが昂ぶってたわけじゃあないのはさすがに判ってる。
どちらかといや女顔、華やかな風貌をしては居ても
それは頼もしい侠気に満ち満ちたお人だし、
荒ぶる任務をこなすだけに漢の要素もそれは強く、何につけ男っぷりの良い人で。
かように雄々しい内面をしっかとお持ちなのだから、
性的な方面でもさぞかし雄々しい武勇を誇ってもいただろに。
なのに、敦の前では…多少は雄の風貌が増しこそするものの、
差し迫ったような素振りなぞ欠片も見せぬ。
今だって間違いなく事後だというにこんなに平然としているなんてと、
自分の不甲斐なさが歯がゆいような、もどかしいような思いがしてならず。
訊きたいような、でも叱られそうだなと、
抑々口にするの自体がさすがに自分でも恥ずかしいことだしと、
どうしようかどうしようと煩悶していれば、

 「また要らねぇこと考えてやがんな?」

ふふと笑った気配がし、温かくって頼もしい手がよしよしと髪を梳いてくれて。
お見通しなことへ うううと肩をすぼめておれば、

 「あのな、敦。」

低められた声がして、中也の暖かい手がふと止まる。
夜もすっかり更けたのか寝室は薄暗く、
声の調子だけでは、どんな顔をしているか測りかねるところだが、
ちょっと狡いかも知れないけれど、虎の目を使えば多少は闇をも透かし見ることが出来て。
どこか和んだ眼差しでこちらを見やっている彼なのへ、
ああ真面目な話なようだと素直に見上げて待っておれば、

  俺ってそうも我慢我慢と踏ん張ってるような、あとがないよな顔してっか?

確かに、まあその、
素肌同士で触れ合ってると、ドキドキもゾクゾクもわきわきもするけどよ、と。
そこは苦笑交じりに、されど正直なところもちゃんと告げてから、
でもな?

 「可愛い敦が辛い想いするのは嫌なんだ。」
 「あ……。//////////」

なあ、こんなもんは 敦のムズムズする気持ちに比べりゃあ
それはちっぽけで下らねぇ虚栄心みたいなもんだがよ、
それでも

 「通させてはくれねぇか。」
 「うう。////////」

訥々と静かに語った中也だったのへ、
俗な言い方しかできないのがもどかしい、でもでも、
何てカッコいいのかと、言葉に詰まる敦だ。

 叱るときはビシッと叱るが、そうでないことへはどれほど甘やかしてくれるのか。

敦がついつい芥川を相手に不満とも取れよう話をこぼしたこと、
一応は軽く咎めてから、
あくまでも自分の側の身勝手な我儘だからと、
だから付き合わせて悪いなという格好であらためて説いてくれる。
太宰のような思慮深くも狡知に長けた人が聞いていたなら、
丸め込んだには違いないなんて失笑するかも知れないが、
生憎と敦にはそこまで人の思惑を掘り下げる倣いはないし、それに、
そうまで気持と言葉を尽くすほど 大事にされているのだということが嬉しくてたまらない。
ただの無知な子供を相手に、頭を下げるような物言いをする。
他人の目がなくたって、その場限りの、騙すこと前提の相手であったって、
矜持が高い人間にはおいそれと出来ることじゃあない。

 「敦?」

煌々とした明るさの下でなし、
感に堪えての黙ったままでいる少年が困っているよに見えたのか、
う~んと視線を泳がせてから、

 「しゃあねぇな。こうなったら色仕掛けだ♪」
 「え? っはははははい?」

通じているのが判っていてか、それとも今になって照れ臭くなったのか、
懐の中で大人しくしているままな敦をグイっと引き寄せると、

 “…あ。////////////”

背中が敷布から少し浮いたと思ったのと同時、
口許へ柔らかな感触がぐいと重なる。
もしかして照れ隠しなのか、
でもでも、やさしい口づけは何とも嬉しいご褒美みたいで。
重なり合ったそのまま、貪るように喰まれるのが

 “気持ちいい…。///////”

こんな風に思うのは さすがに疚しいのかな。
ああでも、もどかしいと言わんばかりに何度も咥え込まれるのは、
欲しい欲しいとしゃにむに思われているかのようで。
こんな至福ってそうはないのだもの、ときめいたってしょうがないよねと。
柔らかいところ同士が蹂躙し合う、
切なくももどかしい愛咬に酔いしれた虎の子くんだった。








     ~ Fine ~    18.02.04.~~2.20


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 *中也さんとの甘い甘いは何か久々な気がしますね。
  頼もしい兄人で、どっしり構えてるような感覚でおりましたが、
  実はちょっと焦れてたら美味しいです。